映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
by broncobilly

キネマ旬報 2012年 6/1号 [雑誌]

キネマ旬報社 (2012-05-19)
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「12人の怒れる男/評決の行方」(12 Angry Men, 97)
 フォックス・ホーム・エンターテインメントさんから「リクエスト・ライブラリー」のDVD四枚を送っていただいた。ありがとうございます。
 その四枚というのは「十二人の怒れる男」(57)、「12人の怒れる男/評決の行方」(97)、「島の女」(57)、そして「男の出発」(72)の四本。「男の出発」懐かしいなあ。「島の女」は観たことがないです。楽しみに見せていただきます。
 「十二人の」ならぬ「12人の」も敢えて観逃していた。以前にビデオソフトが出ていたのは知っていたのだが、あんなに良くできたものをリメイクしてどうするのだ?という疑問があったのだ。ぼくはルメットの作品は大好きだが、リメイクを手がけたウィリアム・フリードキンも好きだ。観ている人のほとんどいない「BUG」だってちゃんと観ている(この作品でマイケル・シャノンを見て驚きファンになったのだ)。そのフリードキンをもってしても「十二人の怒れる男」リメイクというのは無茶だろう、と思ったのだ。その前の「ジェイド」(95)に感心できなかったということもある(その前の「ハード・チェック」94.は良いと思った)。
 今回せっかく送っていただいたので観てみたのだが、これが思いの外素晴らしい出来であった。いただかなかったら観なかっただろう。またまたありがとうございます。
 今回ジャケットを見て驚いたのは出演者の豪華さだ。十五年近く前にビデオが出た時よりも、今の方がお得感が増している。ジャック・レモン、ジョージ・C・スコット、ヒューム・クローニンといった大御所(全員故人)も凄いのだが、脇を固めるのが「CSI」以前のウィリアム・ピーターゼン、「ソプラノズ」以前のジェームズ・ガンドルフィーニ、「バトルスター・ギャラクティカ」以前のエドワード・ジェームズ・オルモス(しかも冒頭に女性判事役でメアリー・マクドネルがちらりと顔を見せる)ら。アフリカ系映画人のゴッドファーザーであるオシー・デイビス(故人)も、ぼくにとっては"「シャドー・コップ」シリーズでバート・レイノルズの相棒だった人"である。
 とまあ、いまや超大物のテレビ・スターたちが結集していて、さすがにフリードキンは一人一人にちゃんと見せ場を与えているのだが、しかしそんな彼らが束になってもかなわないレモンやスコットの凄さがさらに際立つことになっている。
 オリジナルを手がけたレジナルド・ローズが自身でシナリオに手を入れている。時代の変化を取り入れて十二人のうち四人がアフリカ系になっているが、女性陪審員は登場しない。「だってタイトルを「十二人の怒れる人たち」に変えなきゃならないだろ」とローズは語ったそうな。
 有罪評決を下すことに反対するのが最初はレモン一人だったのが、ディスカッションを重ねていくうちに一人一人考えを変えていく。その過程で個々の陪審員の性格や生活が浮かび上がっていく面白さはリメイク版でもまったく変わっていない。
 ルメット版より上だ、などと言う気はないが、しかしルメット版にはない魅力がある。先に挙げた、後のテレビのスーパースターたちとて、「12人の」製作時点ですでにそれなりのキャリアを積んでいたわけで、そんな彼らが日頃から尊敬していたはずのレモン、スコット、クローニンらにぶつかっていく機会を与えられたのだ。
 オールスターキャストであるがゆえに、俳優たちの競争意識がよい意味で画面に緊張感を与えている。やはりレモンが出演していた「摩天楼を夢見て」を観た時にも同じ緊張感がスクリーンから伝わってきた。
 レモンもクローニンもやっぱり素晴らしいのだが、圧巻なのはスコット。オリジナルではリー・J・コップが演じた"最後まで有罪にこだわる男"を圧倒的な存在感で演じきっている。クライマックスでは、ついに心の内をさらけ出すのだが、この場面で他の11人は素で圧倒されている。スコットの演技に感動している。レモンの顔がアップになった時、目に浮かべている涙は演技によるものではないだろう(フリードキンはこの作品をいわゆる"順撮り"で撮影した)。
 こういうのを前に観たことがあるなあ、と思って考えていたら思い出した。
 「ワイルド・ギースⅡ」という映画があった。スコット・グレン扮する傭兵がテレビ局の依頼で、終身幽閉のルドルフ・ヘスを救い出すという話。ヘスを演じているのがローレンス・オリヴィエで、最後の方に少し出てくるだけ。せっかく救い出されたヘスだが、連れてこられたホテルの部屋で、自分は牢獄に戻らなければならないと演説をぶつ。この場面は圧巻でオリヴィエという役者の凄さが遺憾なく発揮されていた。グレンも、仲間の役のバーバラ・カレラも、エドワード・フォックスも素に戻って聞き惚れているのがはっきりとわかった。言いたいことだけ言って「わしゃ、もう寝る」というオリヴィエ/ヘスを寝室まで連れて行き、カメラの方を向いてドアを閉めたフォックスの照れたような感動したような顔は演技ではなかった。大した映画ではない。傑作だった1作目とは比べものにならない。しかし、オリヴィエのモノローグとそれを聞いている役者たちのリアクションだけは"本物"だ。これだけでも観る価値はある。
 目の前で他の役者の名演を観てしまった名優が、演技していることを忘れて感動してしまう瞬間が「12人の怒れる男」にもある。滅多にお目にかかれない貴重な瞬間だ。
 この瞬間を目撃するためだけでも「12人の怒れる男/評決の行方」を観る価値はある。もちろん、この作品の場合はそれだけではない。優れた演出、シナリオの手本としても充分価値のある作品だ。観る者は最初から最後まで引き込まれたままのはずだ。



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by broncobilly | 2011-10-18 05:42 | 雑記
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