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映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「夜に生きる」(Live by Night, 17)

 脚本家、監督しても評価の高いベン・アフレックが、隠れた傑作(日本では劇場未公開)「ゴーン・ベイビー・ゴーン」(07)に続いて、デニス・ルへインの原作に挑んだとなれば、期待するなと言う方が無理である。

 大いに胸を躍らせて劇場に出かけたのだが、期待が大きすぎたせいか、可もなく不可もなし、とまでは言えないにしても、B+程度の、半端な満足感で家路をたどることとは相成った。

 禁酒法時代のボストン、警察幹部の息子でありながら、組織に所属することを嫌い、数少ない仲間と犯罪行為を繰り返す主人公がアフレック。アイルランド系ギャングのボスの情婦シエナ・ミラーと愛し合うようになるが、二人の関係がボス、ロバート・グレニスターにばれ、瀕死の目に遭わされ、ミラーは殺されてしまう。

 復讐のために、自らはアイルランド系でありながら、グレニスターのライバルであるイタリア系ギャングのボスの配下となったアフレックは、マイアミに派遣され、キューバのギャングと組んで密造酒を捌き、やがてカジノの建設に野望を燃やすことになる。

 などと書いてくると、典型的なギャング映画みたいだが、禁酒法時代を背景にしていても、舞台がシカゴやニューヨークではなく、主人公がマイアミに渡ってからは、KKKと一戦を交えることになるあたり、目先が変わっていて大いに楽しめる。

 俳優陣も充実していて、アフレックと愛し合うようになるキューバ系ギャングの妹がゾーイ・サルダナで、マイアミ現地の警察署長がクリス・クーパー。主人公の父がブレンダン・グリーソンという豪華な顔ぶれ。クラーク・グレッグや、クリスチャン・クレメンソンがちらりと顔を出すのも嬉しい。

 中でも、感心させられたのが最近成長著しいエル・ファニングでクーパーの娘を演じている。女優を夢見てハリウッドに渡ろうとしたものの、途中で麻薬漬けにされていたのをアフレックに救われ、クーパーとの取引材料とされ、その後は厳しい倫理を解く説教師になる、という難役をしっかりと演じきっている。

 アフレックと会話を交わし、"聖人"の仮面の裏の、苦悩に満ちた魂をあからさまにする場面での演技は素晴らしい。

 美人女優のイメージで売ってきたミラーの蓮っ葉な悪女ぶりも悪くない。アフレックとの別れの場面で見せる表情に味がある。

 複雑なストーリーをわかりやすく語る脚本家としても、銃撃戦アクションを迫力たっぷりに見せる演出家としても、さすがにアフレックは達者なものである。

 と書いてくると、とても良い映画のようだが、でもやはり、これまでのアフレック監督作品と比べてしまうと、パワーが足りないのである。

 主人公像がはっきりしないからだ。悪なのか、善なのか、一匹狼でいたいのか、組織のトップに立ちたいのか、あくまで権力を求めているのか、それとも愛した女の復讐が唯一の目的なのか、あるいは自分を見失って苦しんでいるのか…。ルヘインの原作は未読なのだが、映画ではその辺がはっきりせず、なんだか主人公がいい子でいるために無理に拵えた脚本という感じがしてしまう。
 

 ファニングが演じているキャラクターの人間としての苦悩が際立っているだけに、主人公像の曖昧さが目立ってしまう。

 ルヘイン原作というと、こちらは「ゴーン・ベイビー・ゴーン」だけでなく、「ミスティック・リバー」や、「夜に生きる」の製作総指揮を担当しているレオナルド・ディカプリオが主演した「シャッター・アイランド」なども思いだしてしまい、主人公たちが置かれることになった地獄が、これらの作品を観たときには、ぼくの心に突き刺さってきたので、「夜に生きる」がいっそう物足りなく感じてしまったのかもしれない。いや、きっとそうだ。もう、そうに決まった。

 一件落着の後に、ある悲劇が主人公を襲うことになる。ワーナー・ブラザースのギャング映画は、こうでなくてはいけない。

 しかし、その辺りの描写も通り一遍で、そのあとにも主人公に対する、ある種の"救済"が長々と(個人の印象です)描かれるのは蛇足のような気がしてならなかった。





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by broncobilly | 2017-05-21 15:42 | 映画評
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