おにがしま


映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「ボヘミアン・ラプソディ」(Bohemian Rhapsody, 18)

 ずいぶん昔のことになるが、当時同僚だったアメリカ人の教員と話していて、ぼくよりずっと年上だった彼はゲイリー・クーパーと同じ出身地で、そこには小学生だったクーパーが馬に乗って通学していたという話が、まことしやかに伝わっていると教えてもらった。「まあ作り話だろうが、真実であるべき作り話だよね」と彼。

 フレディ・マーキュリーと、バンド、クイーンの伝記映画である「ボヘミアン・ラプソディ」でフレディを演じることになっていたサシャ・バロン・コーエンは完成したシナリオを読んで「きれい事だ」と降板した。

 確かに「ボヘミアン・ラプソディ」を観ていると、特に中盤から終盤にかけては、本当ならもっとどろどろしていそうなところを、綺麗に「いい話」にまとめている気配が濃厚である。
 ブライアン・シンガーがフレディ役のラミ・マレックと衝突して途中降板し、デクスター・フレッチャーが残り部分の撮影と全体の編集の指揮を執ったことも、「いい話」としての出来上がりに関係しているのかもしれない。

 批評家からと一般観客からの評価が乖離するのは珍しいことではないが、この作品の場合は特に著しいことが話題となっている。

 確かに「批評家」として観れば、当たり障りのない「偉人伝」、「きれい事」にまとめた、深みのない伝記映画にしか見えない。

 でも、それでいいのだ。クイーンやフレディやロックのファンが観たいのは、こんな作品であり、この物語であり、ここにいるフレディなのだから。

 「深み」なんて、クイーンの曲が次々とかかることで充分に与えられているのだから。

 「ボヘミアン・ラプソディ」は「真実であるべき(ところどころ)作り話」で、「真実であるべき作り話」を「伝説」と言う。ファンが求めているのは「伝説」なのだ。フレディの物語なのだから。

 もうね、「音楽が終わり、最高に盛り上がっているところで、グズグズせずに、さっと終わる」という音楽映画の鉄則を遵守している時点で、これはもう(「伝説」を描く)素晴らしい作品であります。
 日本のロック映画は、このあたりが決定的にダメだ。武士の名前でタイトルは挙げないが「デトロイト・メタル・シティ」とか「少年メリケンサック」とか(「音量を上げろタコ!」は未見)。

 マイク・マイヤーズが、どうでもいい役で出ていると思ったら、「あのセリフ」を言わせたかっただけなんですね。

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# by broncobilly | 2018-11-12 07:50 | 映画評

「ザ・アウトロー」(Den of Thieves, 18)

 デフ・レパードのライブに上京し、昼の間に一本だけ映画を観る時間があった。「2001年
宇宙の旅」をIMAXで上映している。「遊星からの物体X」も観られる。どっちを観ようかなあ、と悩んでいるうちに、「ザ・アウトロー」なる謎映画が新宿で上映されているのを、うっかりと見つけてしまう。
 「ザ・アウトロー」? 知らんなあ。邦題だろうなあ。「ザ・インターネット」とか「ザ・エージェント」とか、「カタカナ英語の邦題は、母音で始まる名詞でも冠詞は‘ジ’ではなく‘ザ’になる」というルール(?)にしたがってるもんなあ、と思ってチェックしてみると、これ、Den of Thives ではないですか! ジェラルド・バトラー主演のアクション・サスペンスでアメリカではスマッシュ・ヒットとなり、なかなか評判も良く、続編の製作も決まっている作品。

 「エンド・オブ・キングダム」のクリスチャン・グーデガスト脚本・監督なので、期待しすぎてはいけないよな、などと思いつつ、結局これを選び、「絶対、後悔するよなあ、「2001年」か「物体X」にしとくべきだったって」」と気乗り薄で対峙することとなったのだが…。

 これにして正解だった。面白かった。大好物の映画だったよ。

 まず、これは絶対劇場で観なくてはならない作品。とにもかくにも、高性能の銃器での撃ち合い描写が冒頭から炸裂。音響効果が素晴らしい。

 バトラー演じるLA郡保安局特殊チームとパプロ・シュレイバー演じるリーダーのもと、元特殊部隊員たちで構成される銀行強盗グループの対決、という図式はマイケル・マンの「ヒート」を想起させる。そして銃撃戦の描写、迫力の方も「ヒート」に負けていない。

 そして、これも「ヒート」を想起させるのだが、バトラーとシュライバーのキャラクター描写が丁寧である。保安官としては優秀でも人間としては完全に破綻していて、妻から三行半を突きつけられたり、シュライバー一味にゲタウェイ・ドライバーとして雇われたオシェア・ジャクソンJr.を拉致し、脅し、「生かさず、殺さず」という感じで利用する卑劣さなども容赦なく描かれる。主人公のイヤな部分もきっちりと描写しているので、いがみ合っていたFBI捜査官と心を通わせる終盤のさりげない描写などに、しみじみとした味がでる。
 一方、強盗一味の(主人公とは対照的な)良き家庭人としての一面なども描かれて、単純な正義vs.悪ではなく、プロの男たち同士の血戦という感じになるのがよろしい。

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 さらに気に入ったのが、実はこれがケイパー・ムービーになっていること。一味が難攻不落の連邦準備銀行にどうやって潜入し、金を奪うつもりなのか、なぜ決行当日に別の小さな銀行に立て籠もるのか、というあたりは、根本のトリックがバトラーが以前主演したサスペンスと同じなので、すぐに見当は付いたのだが、それ以外にも細かい工夫がいろいろとあって、ケイパー・ムービーとしては「オーシャンズ8」よりも、ずっと丁寧である。

 そして、男同士の対決の決着が付いた後に、浮かび上がる意外な真相と逆転。ああ、こりゃ続編出来るよなあ、というラスト。

 こういう、超大作でもなく、派手なC.G.I.に頼っておらず、(ツッコミ始めればきりがないけれど)ミステリとしての工夫があり、キャラクター描写も丁寧で、アクションはすこぶるリアルという、具全部乗せのラーメンみたいな映画は、ありそうでなかなかない。

 まともな宣伝もないままに、ひっそりと公開されてるが、劇場で観ておいて損はないですぜ。

# by broncobilly | 2018-10-27 08:56 | 映画評

「呪われた死霊館」(Malevolent,18)

80年代半ばのグラスゴー。ジャクソンとアンジェラの兄妹は、仲間たちと共に、アンジェラに霊媒の能力があると偽って幽霊退治のインチキ商売をしている。だが幼い姉妹たちが兄の手にかかって殺害されたという屋敷へ商売に赴くと、そこには確かに何かがいた。そして、アンジェラには、その‘なにか’が見えるようになっていた。

 Netflixのオリジナル作品は玉石混合で、まあ実際のところ石の方が多い。「死霊館の呪い」も、あまりと言えばあまりの邦題だし(原題はMalevolent)、IMDbを覗いてみても評価が極めて低いので、いつもならパスするところである。にも関わらず、どうして観てしまったのかというと、主演がフローレンス・ピューという女優さんだったから。知らない名前だったのだけれど、パク・チヤヌク監督版の「リトル・ドラマー・ガール」に主演で、グレタ・ガーウィグ監督版「若草物語」ではシアーシャ・ローナン、エマ・ワトソンと共演してエイミー・マーチを演じているとなれば、注目しておかないわけにはいかないではないか。

 で、作品そのものには期待を持たずに観始めたのだけれど、それがかえって良かったのか、思いの外楽しめた。

 オーフラ・デ・フルル監督の演出は、雰囲気重視で淡々としているのかと思えば、急に大きな音を立てて驚かせる場面もいくつかあり、じっくり見せたいのか、とにかく怖がらせたいのか、どっちつかずで前半はピューの熱演もあって退屈こそしないものの、特に感心するような要素もない。

 ところが、おお!と身を乗り出すことになるのが後半の展開で、これからご覧になる方のために詳しくは書けないのだが、幽霊屋敷ホラーから、別系統のホラーへとググッと舵を切るのである。
 そうなると、そっち系統ホラーとしての描写が意外と徹底しており、そっち系統と幽霊もののカクテルが、意外と上手くいっていることもあって、こちらも襟を正して画面に向き合うこととなった。

 全体の尺が九〇分足らずなので、飽きる暇もなく、後半はかなり加速して一気に見せる。

 屋敷を脱出したアンジェラ/ピューが、ある人物と出会う場面は特に気に入ったし、ラストの余韻もいい。

 上記の二つの場面ではピューが、なるほど、これなら売れっ子になるなあ、と思わせる表情を見せてくれる。

 小粒ながら拾いもの。
 そして、フローレンス・ピューには、やはり注目しておこう。

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# by broncobilly | 2018-10-10 15:36 | 映画評

「オペレーション・フィナーレ」(Operation Finale, 18)

 ベン・キングスレーという人は、何度も結婚と離婚を繰り返していて、別れた元奥さんたちへ支払う慰謝料の額が莫大だという記事を読んだことがある。そのせいか、吃驚するほど安っぽい作品にも頻繁に出演して、そんな時はやっつけ仕事の演技をしている。そのため、彼がどれほど優れた俳優なのかということを、ついつい忘れてしまいそうになるのだが、ちゃんとした作品で熱演しているときには、ああ、やっぱりキングスレーは凄いなあ、と改めて感心したり、感動したりする。
 「オペレーション・フィナーレ」を観て、久々にキングスレーの巧さと凄さに唸った。

 ナチス崩壊後、アルゼンチンに潜伏していた‘ホロコーストの実行人’アイヒマンを捕らえ、国外に連れ出したモサド諜報員(オスカー・アイザック、メラニー・ロラン)らの作戦を描く「オペレーション・フィナーレ」、って、これ、ついこの間、全米で公開されて、そこそこヒットしたし、評判も良かった映画じゃん!
こんなのが、いきなり配信されるからNetflixは止められない。

 監督はクリス・ワイツ。「ライラの冒険」や「ニュー・ムーン/トワイライト・サーガ」などの、ふにゃけたファンタジーを撮ったときとは打って変わって、じっくりと落ち着いた演出でサスペンスを盛り上げていく。爆発や銃撃戦などの派手な見せ場があるわけではないのに、淡々とした演出だからこその静かな緊迫感が見事である

 そして、やはり見事なのがキングスレー。囚われの身となりながら貫禄を失わず、捕らえた側を圧倒していく存在感が画面を満たす。この作品の製作を兼ねるアイザックが、キングスレーの演技をがっちりと受け止める。この二人が対峙するいくつかの場面は、特に見応えがある。

 この作品は当然、アイヒマンを美化などしていないわけだが、特に憎々しい悪魔として描いているわけでもない。家族に対しては良き父、良き夫として、描いている。実際そうだったのだろう。
 愛情深き父、夫であっても、同時に悪魔になりうる。そしてアルゼンチンでアイヒマンを護り、ナチス再興を夢み、ユダヤ人たちへの憎しみをぶつけるドイツ人たちとて、自分たちの思想や信条、そして異民族への憎しみはまったく正当なものだと思っている。そのことが伝わってくるから、この作品はとても恐ろしい。

 と同時に、今のような時代だからこそ作られるべきであった、今のような時代にこそ観ておくべき作品だとも思う。

*ピーター・ストラウスが小さな役で出演していて驚いたよ。

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# by broncobilly | 2018-10-06 09:24 | 映画評

「クワイエット・プレイス」(A Quiet Place, 18)

 音に反応して人を襲うモンスター(エイリアン?)の襲来で文明が壊滅した世界。アメリカ国内で生き残った家族のサバイバル。
 低予算ながらサプライズのメガヒットとなった作品。

 「低予算ながらサプライズ・ヒット」という作品は特にホラー・ジャンルの場合、とびきり面白いことが多いので(「ドント・ブリーズ」、「イット・フォローズ」、「ゲット・アウト」…)、大いに期待して見物に出かけたのだが、期待しすぎたのか、「悪くはないけどね…」という感じだった。

 実生活でも妻であるエモリー・ブラントと共に主演をつとめるジョン・クラシンスキーの演出は手堅い、という点では悪くない。
 だが、クラシンスキーも参加している脚本は結局スピルバーグの「宇宙戦争」でティム・ロビンスが登場したシークエンスを引き延ばして一本の映画に仕立てている、という感じで、そうなると「宇宙戦争」のスピルバーグはやっぱり上手いよなあ、としみじみ思いだしてしまう。

 登場するモンスターのデザインが、これまでのホラー/SFで百万回くらい見せられたタイプなのにもげんなりした。

 父と娘のすれ違いと和解というドラマも通り一遍だなあ。

 いや、楽しかったんですよ。ぼくはチキンだから、恐かったし、ハラハラしたし。
 でも、一番ハラハラさせられて恐かったのは、「音を立てるな!」でもモンスターでもなくて、「釘」でした。あれには参った。最初に映ってから、ずっと気が気じゃなかったよ。

 仕事でちょっと関わらせてもらったからというわけでもないのだが、これから公開される「アンダー・ザ・シルバーレイク」、「イット・カムズ・アット・ナイト」という、ホラー映画じゃないけれど、ホラーの要素もある豊穣な作品を堪能したあとだったので、「クワイエット・プレイス」を楽しみながらも、「やっぱ、マイケル・ベイが関わると、こんな感じになるんだなあ」と、変な納得をしてしまった。

 でも続編も観に行くけどね。

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# by broncobilly | 2018-10-05 08:05 | 映画評