おにがしま


映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「ラブリーボーン」The Lovely Bones (09) *結末に触れている部分があります

 観る前に酷い評判、特に原作のファンたちからの酷評を散々目にしていたので、原作には手を出さず(podcastで自らも性犯罪の被害者である原作者へのインタビューと小説の冒頭部分の朗読を聞いて怖じ気づいてしまったということもある)、あくまでもピーター・ジャクソンの作品として楽しもうと思って出かけたのだが、うーむ、困ったなあ、というのが率直な感想である。
 犯罪の犠牲となって死んだ少女シアーシャ・ローナンがあの世とこの世の狭間にある場所から家族の再生を見つめ、妹が新たな犠牲者となることを防ごうとする、というような話なのだが、ローナンのナレーションが随所に入るのに、彼女の視点である、という前提がしっかりしていないので語り口がとっ散らかってしまっているのが最大の難点だ。
 個々の場面にはさすがに良いところがある。犯人スタンリー・トゥッチによる凶行を直接描写せずに、入浴している彼の様子と、それを見て自分の身に起こったことを悟る少女の様子で観客に伝える、という場面は特に優れている。
 死んだ少女がいる場所の描写も、彼女の主観によるパラダイスだということが説明されているのでそれほど違和感はない。違和感がなさ過ぎてつまらないが。ローナンが、自分と同じような目にあった犠牲者たちの亡骸を次々と目にしていくあたりの鮮烈な描写とスピード感に、むしろジャクソンらしさが見受けられる。
 それにしても全体の統一感のなさは致命的だ。ローナンの妹が姉殺しの証拠を探そうとトウッチの家に潜入すると、そこにトウッチが帰ってきて・・・・というヒッチコックばりの場面(ジャクソンはヒッチコックみたいに、別のある場面に登場したりもしている)は良くできているのだが、それまでの流れからすると唐突だし、妹が間一髪で証拠を持って帰宅してみると家出していた母親が戻っていて感動の家族再会の場面になる、というあたりつなぎ方が無茶に感じられる。
 慌てたトゥッチがローナンの遺体を隠した金庫を大穴に入れて処理しようとすると、ローナンが天から降りてきて思いを寄せていた少年と再会するのだが、この二つの場面を「見知らぬ乗客」に出てきたようなカットバックにする意味がわからない。いかにも曰くありげなのだが、別に証拠隠滅を阻止しようということでもなく、ローナンと少年はしんみりとした場面を演じるのである。
 ヒッチコックと言えばトゥッチが演じた殺人犯のキャラクターには明らかに「サイコ」のノーマン・ベイツが投影されていて、鳥の死体のスケッチが登場するたたりはベイツ・モーテルの鳥の剥製を思わせるし、凶行現場をせっせと掃除するあたりも「サイコ」を意識しているはずだ。
 素晴らしい具材がたくさん揃っているのに、料理してみたらそれらが上手くマッチせずに美味しくならなかった、という感じである。

by broncobilly | 2010-02-03 08:41
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