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映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「ユニバーサル・ソルジャー 殺戮の黙示録」(Universal Solder: Day of Reckoning, 12)

 なんだか凄いものを観てしまった。前作「ユニバーサル・ソルジャー: リジェネレーション」が拾いものと言える面白さだったので、同じジョン・ハイアムスが監督/脚本を担当した「殺戮の黙示録」をレンタルしたのだが、いやあ、驚いた。これもはや「ユニバーサル・ソルジャー」でもなんでもないよ。

 きっとあれですよ。ジョン・ハイアムスが、「またユニソルやりますよ。ヴァン・ダムもラングレンも出るって言ってますよ。そんなに金かかりませんから、また大儲けですよ」とかなんと言って会社をだまくらかして、自分の作りたかった前衛SFを撮ってしまったんだろう。

 妻と幼い娘と平和に暮らす主人公ジョン(スコット・アドキンス)の家に覆面をした暴漢たちが押し入る。ボス格の男がジョンの眼前で妻をまず射殺。覆面を脱ぐと、なんとヴァン=ダム!というあたりは、残酷な殺し屋の顔が映ると、なんとヘンリー・フォンダ!という、セルジオ・レオーネ監督「ウエスタン」の名場面をお手本にしたのだろう。ヴァン・ダムは「エクスペンダブルズ2」で残酷な悪玉を演じたばかりなのでインパクトはいくぶん減じるが、それでもユニソル・シリーズですからね。おいおい、という感じになる。そのあと、子供まで殺しちゃうし。

 この作品のヴァン・ダムはなぜかスキンヘッドなのだが、それもそのはず、今回は(適切な邦題が示すとおり)コッポラの「地獄の黙示録」がベースになっているのだ。コンラッドの『闇の奥』ではなくて、あくまでも映画の方。ヴァン・ダム/リュックがブランド/カーツ。

 妻子が殺される以前の記憶をすべて失ったジョンは、自分探しをしながら、家族の仇であるヴァン・ダム/リュックを捜し求めていく。そして物語はどんどんSF的そして哲学的になっていく。ユニソル・シリーズはアクション場面を見せるためにSF的設定がある、という感じだったのだが、今回はアクションもある本格SFという感じ。SFサスペンスの傑作「カプリコン・1」、佳作「アウトランド」、「タイムコップ」、「2001年宇宙の旅」続編という無謀な試み「2010年」、駄作「レリック」、「サウンド・オブ・サンダー」などを撮った父ピーター同様、ジョン・ハイアムスもかなりのSFファンと見た。

 と言っても、アクション描写がおざなりなわけではなく、格闘場面の演出は実に上手いと思う。カットを細かく割ってテンポを出しているのだが、それでもカット割りで役者が動いていないのをごまかす(最近多い)のではなくて、見せるべきものはきちんと見せているのである。少々グロ描写がきつすぎるが、ここまで迫力のある格闘場面は近年の映画の中では出色だと思う。カーチェイス場面の撮り方も上手い。それほど金はかかっていなさそうだが、「ダイ・ハード/ラスト・デイ」のガチャガチャたくさん壊れる割にはスカスカと軽いカークラッシュ場面よりもよっぽどいいよ。「エクスペンダブルズ3」の監督はジョン・ハイアムスがやればいいんだよ。

 物語終盤になると主人公はちゃんと川を上っていく。そして着いた場所の描写は「地獄の黙示録」に登場したカーツ大佐の王国にそっくり。「リジェネレーション」にも見事なワンショット長廻しシークエンスがあって感心したが、今回はこの終盤で前作以上に凝りまくった長廻しアクション・シークエンスが見られる。すごい。「トゥモロー・ワールド」の素晴らしい長廻しに匹敵する場面だが、低予算であることを考えるとさらに感心させられる。

 ラングレンが前作以上にソーゼツな死にざまを見せたあと、いよいよジョンとリュックの対決。リュックは「父を殺すのか」みたいなセリフを口にするのだが、そうなんだよね。「地獄の黙示録」は父殺しの物語なんだよね。「ゲド戦記」で始まった早々に主人公が父王を殺すのにもびっくりしたが、二世の映画作家は一度は"父殺し"をしておきたくなるものなのだろうか。しかも、主人公の名前ジョンって、まんまじゃん。

 ヴァン=ダムの格闘場面は最後のこの一回だけである。というわけで、正義のユニソル、リュックが大暴れ、という作品を期待すると、がっかりすると言うよりも、ただもうわけがわからなくなる作品。迫力あるアクション演出、本格SF、父に対する屈折した思い、が"全部乗せ"になった脂っこいラーメン。毎食これだったら死んじゃうけど、体に毒だとわかっていても、たまには食べたくなる味。ジョン・ハイアムスにはこれからも注目したい。




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by broncobilly | 2013-03-30 07:14 | 映画評
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