おにがしま


映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「ハミングバード」(HUMMINGBIRD, aka. REDEMPTION. 13.)

 海外DVD通販サイトDVD Fantasiumで、大幅値下げされていた商品の中に、定価で購入する気にはならないけれど、この値段なら・・・・、と思える作品が三本(三枚?)あったのでBDを注文してみた。そのうち二本はこのブログにすでに文章をアップした「ウォールストリート・ダウン」と「キリングゲーム」だったわけだが、それほど期待せずに観たHUMMINGBIRD(米盤DVDタイトルはREDEMPTION)が、思いがけない小傑作で、新年早々拾いものだったよ。

 アフガンの戦場で軍規違反を犯した特殊部隊兵士ジェイソン・ステイサムは軍法会議にかけられる前に逃亡、薬漬けとなってロンドンでホームレスになっている。ホームレスから金と麻薬をむしり取るチンピラたちから逃れるうちに、主が長期不在となっているマンションの一室に入り込んで、そこで暮らし始める。

 やがて彼は中国人ギャングの用心棒となって大金を稼ぐようになり、ホームレスたちへの慈善活動を続ける修道女アガタ・ブゼクとの間に交流も生まれる。

 だが彼は新たな暮らしに満足してはいなかった。娼婦となったホームレス仲間の少女を惨殺した犯人への復讐を密かに誓っていたのだ。

 「ブリッツ」、「キラー・エリート」、「SAFE/セイフ」あたりの最近の作品を観れば、ステイサムが型にはまったアクション・スターにならないように新たな道を模索しているのは明らかだが、上記の三作品とも、主人公のキャラを深めること、ストーリーのドラマ性を強めることと、観客が期待する華麗なステイサム・アクションを融合することが上手くいっておらず、どこかいびつなところのある作品になってしまっている。

 HUMMINGBIRDは、ステイサムのアクションは最小限に抑えて、ドラマの面白さと主人公のキャラクター描写にはっきりと軸足を置いている。アクションを、ドラマを盛り上げるための要素として割り切ることで、この作品は成功したと思う。最初から最後までステイサムが暴れている作品を期待した観客は驚くだろうし、中にはがっかりする人もいるだろうが、ドラマそのものに引き込まれ、そしてステイサムの役者としての幅に感心する人も決して少なくはないと思うのだ。

 主人公はステイサムが演じているのだから腕っ節が強いのは当然だが、戦場で傷つき、壊れてしまった人間である。稼いだ金をホームレス支援に使ったりもするが、しかし、悪事に荷担して稼いだ金であり、本人にもそのことはわかっている。ヒーローを演じてきたステイサムは、「セルラー」や、未見の人のためにタイトルを書くわけにはいかない作品で悪役を演じたこともあるが、HUMMINGBIRDでは単純な正義漢でも悪漢でもない、強さも弱さも併せ持つ人間の苦悩を驚くほど繊細な演技で表現している。

 一方、相手役となるブゼクも紋切り型の修道女ではない。彼女にも欲望や葛藤があり、そして彼女もまた主人公と同じように過去のトラウマにもだえ苦しむ"壊れた"人間であることがある時点で明らかになるのだ。

 ブゼクはたいへんな美人というわけではないところにこの役を演じる上での説得力があるのだが、段々と魅力的に見えてくる。演技もしっかりしていて、"作品の彩りとしてのステイサムの相手役"には収まらない存在感で、ステイサムの演技をがっちりと受けている。

 スティーヴン・ナイト(脚本/監督)というのは初めて聞く名前だが、「アメイジング・グレイス」や「イースタン・プロミス」のシナリオを書いた人とのこと。道理でただ者ではないと思った。
 小道具の使い方や伏線の張り方が巧みで、ステイサムとブゼクが最後に語り合う劇場前の場面など、実にしみじみとした味を出している。

 金融危機後のアメリカ格差社会の現実については、ニュースや映画などで度々目にするが、イギリスについては。もちろん新聞などで読むことはあっても、映画などを観て、その現実が(フィクションというフィルターを通しているからこその)生々しさをもって伝わってくることは少ない。でも「アタック・ザ・ブロック」、「狼たちの処刑台」、「ハートレス」そしてこの作品あたりを観ていると、ロンドンはN.Y.なんかよりも酷いことになっているんじゃないかという気がひしひしとしてくる。

 「ウォールストリート・ダウン」のように分かり易すぎる形でではないが、やはりこの作品も、格差社会への怒りが根底にある。娼婦殺害犯の設定と、犯人とステイサムが顔を合わせる場面を観れば、そのことは明らかだ("down there"という言葉がポイント)。

 ステイサム主演作品だから、いずれ日本でも公開されるだろうが、きっと"お馴染みジェイソン・ステイサム主演のアクション大作!"として宣伝されることになるのだろう。数少ないアクション・シークエンスを上手く抜いて繋いだ予告編が作られるような気がする。

 でもね、ステイサムのアクション映画は苦手、興味ない、という人も、この作品は観ておいた方がいいと思うのであります。







Hummingbird [DVD] [Import]

by broncobilly | 2014-01-05 16:44 | 映画評
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