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映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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*ネタバレしてます! 「複製された男」(ENEMY, 13)

 「プリズナーズ」を観てドゥニ・ヴィルヌーヴ監督に大いに感心したので(「灼熱の魂」も早く観なきゃ)、静岡では当分公開され無さそうな「複製された男」のディスクを輸入して鑑賞した。

 ノーペル賞作家ジョゼ・サラマーゴの小説の映画化。
 大学教員のアダム(ジェイク・ギレンホール)は同僚から進められた映画のDVDを鑑賞していて愕然とする。自分とうり二つの男が役者として出演していたのだ。やがて二人は対面することになるが、役者/アンソニーは意外な要求をアダムに突きつけてくる。

 えっと、ネタバレします。というか、この作品に関しては、自分の解釈を書くしかない。でないと、つまらなかった、とか、面白かった、ギレンホールの演技が良かった、で終わってしまう。解釈を書くと、それはとりもなおさずネタバレになる。

 面白かった。ギレンホールは熱演だった。

 はい、ネタバレが嫌な人はここまでで。よかったら、作品鑑賞後に続きを読んでみてくださいね。

 アダムは温和しく、平凡な日々を繰り返しているが、実は荒々しい暴力性とサディズムを裡に抱えている。そのことは、変質的なセックス・ショーを見せるクラブの会員になっていることからわかる。そこでは、モデル(?)が大きなクモをヒールで踏みつぶすという出し物がある。

 アダムの日常の繰り返しが、これでもかとばかりに序盤で強調される。代わり映えのしない講義。恋人であるメアリー(メラニー・ロラン)との代わり映えのしない性行為。自らもバリバリと仕事をしているメアリーは結婚する気もないようだ。家庭を持って子供を持つことも無さそうなアダム。

 一方、アンソニーは荒々しさを表に出した男である。妻ヘレン(サラ・ガドン)は身重である。

 アンソニーはメアリーに一目惚れし、一晩アダムと入れ替わることを要求してくる。行為の途中でアダムが別人であることに気づいたメアリーは、アンソニーを拒むが、ヘレンは別人であるとわかりながらアダムを受け入れる。

 アンソニーとメアリーは自動車事故で死んでしまう。

 双子だった、とか、クローンだった、とかの合理的(?)説明は一切ない。

 ぼくは、アダムがアンソニーを造り出したのだと思う。

 自分の中の暴力性、変態性を具現したアンソニーを造り出し、心の中のどこかで疎んじるようになっていたメアリーと共に処理してしまう。

 そしてアダムは、新たな伴侶、子ども、家庭を手に入れる。

 そう解釈するとアダムが母(イザベラ・ロッセリーニ)と気が進まないままに合う場面があり、アンソニーの母からの電話をアダムが無視し続けるという設定、アンソニーの好物で、アダムの母が勧めるブルーベリーを、アダムが「嫌いだ」と一蹴するあたりも辻褄が合うような気がする。

 だが、その過程において彼は、自らの心が産み出した妄念のクモの巣に絡め取られてしまう。作品中、町を見下ろす巨大なクモのショットが突然挿入されて驚かされる。アンソニーとメアリーが乗って死んでしまう車のウィンドウには、蜘蛛の巣のようなひびが入る。

 そしてラストのアレ(さすがにネタバレでも書けません)。

 アダムは自分の"世界"の中で"要らないもの"を、自らの造り出したクモの巣に捕らえてクモに食わせてしまうのだが、"要らないもの"はやっぱりアダムの本質の一部であり、切り離せないのだ。
 
 だからあのラスト。

 なんて書くとすっきりした作品みたいだが、実際は演技にも、演出にももやもやとした陰鬱さ、重さがあって、それがこの作品の魅力。頻繁にインサートされる近未来的な都市の姿は、「her」とはまた違って意味で魅力的である。ここでは主人公の身体と精神を捉える巨大なクモの巣のようにも見えて…。

 再見すると、新たな発見があるかもしれないと思う。解釈も変わるかも知れない。

 また、時間を置いて観てみよう。





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by broncobilly | 2014-07-13 11:55 | 映画評
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