おにがしま


映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「荒野の千鳥足」(Wake in Fright, 71)

 いやあ、凄いものを見せていただいた。「荒野の千鳥足」という、どことなく懐かしの「死霊の盆踊り」を思わせるような邦題なので、正直最初は食指が動かなかったのだが、ちょいと調べてみると七一年に公開されて以来、長年プリントが行方不明となっていたこの怪作。発見され、リストアされたプリントを観たスコセッシが絶賛したこともあって、再評価の気運が高まり、現在ではオーストラリア映画史に残る至宝、とまで言われているとのこと。

 実際に鑑賞してみて驚いた.なるほど、これは傑作である。

 オーストラリアの荒野にある学校で教師をしている、というか、させられている主人公ゲイリー・ボンド。ようやくやってきたクリスマス休暇を大都会シドニーで恋人と過ごすために出発。途中、さびれた鉱山町で一泊だけしようとする。

 ところがここにいる連中が保安官からなにから、誰彼とも無くビールを勧めてくる。主人公、ひたすら呑む、飲む、のむ。酔った勢いで賭博に手を出し一文無しに.さて、主人公の運命は…つうか物語と言っていいのか、物語を超越した終わらない悪夢と言うべきか。

 「凄まじいほどに不快」というスコセッシの言葉に誇張はない。公開当時論議を呼んだカンガルー狩りの場面はもちろん今観てもショッキングで、「この作品に登場する動物はすべて…」という但し書きがエンドロールのお約束になっている現代では絶対不可能。

 ただ、それだけではなく、ただ単に主人公がひたすらビールを飲み続けているところ(つまり最初からほぼ最後まで)とか、酔っ払っているところとか、あらゆる場面が不吉で不快なのである。

 この不吉さ、不快さには、オーストラリアの荒野の街、という舞台設定も大いに寄与していて、「マッド・マックス」1作目のざらりとした感触を久々に思い出した。
 カメラが360度パンして、でも映るのは地平線ばかり、という冒頭からただならぬ雰囲気がある。 

 出演者の中には今でも良く顔を見る豪人俳優ジャック・トンプソンなんかもいるのだけれど、やっぱりドナルド・プレザンスの存在感が凄い。特殊メイク無しでも異世界を感じさせる風貌が特徴の人だが、この作品でも、実は悪魔なんじゃないですか?という感じで主人公に付きまとい、堕落させていく。

 まあパターンとしては昔からある、見知らぬ街に迷い込んだ主人公が出て行けなくなる、という安部公房の『砂の女』とか、オリバー・ストーンの「Uターン」とかベルトリッチの「暗殺のオペラ」とか、クリスチャン・スレイターが主演した「ジュリアン・ポーの涙」とかの不条理ものの系譜にある物語で、このパターンの変種が、最近流行どころかジャンルとして確立してしまった感のあるタイムループものだと思う。

 見知らぬ地獄のような街からどうしても出て行けない、とか、同じ時間がループする、とかは、突飛な設定のようでいて実際は、決まり切った不自由な日常から逃げ出すことのできない人間(つまり、我々ほとんど全員)存在のメタファーなわけだよね。

 では、この作品の主人公はどうなるか、ということだが、どうしても抜け出せない、というありがちなオチを、さらに一ひねり二捻りしていて、実に面白かったし、怖かった。

 あっ、この作品では逃げられるんだな、でも待てよ…、と改めて考えさせられてしまうのだ。

 監督のテッド・コッチェフは「ランボー」1作目を撮った人で、考えてみればあれも、知らない街に立ち寄って主人公が不条理な目に遭って出られなくなる話、だったよな。

 リメイクもされた「おかしな泥棒ディック&ジェーン」とか「料理長殿、ご用心」、「ノース・ダラス40」、「地獄の七人」とか、ぼくはこの人の作品には好きなものが多いのだが、「ランボー」も含めて、素材を手堅く正攻法で撮る人、というイメージがあるのでこんな作品も撮っていたのか!?と新鮮な驚きだった。
 そもそも、コッチェフはオーストラリアではなくてカナダ出身なのに。

 非常に限定された公開になるようだが、チャンスがあればぜひ観ておくべき作品だと思う。




 

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キネマ旬報 2014年9月下旬号 No.1671

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by broncobilly | 2014-09-04 15:48 | 映画評
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