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映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「アメリカン・ドリーマー」(A Most Violent Year, 14)

 月並みな言い方で申し訳ないが、月日の経つのは早いもので、今年もそろそろベスト・テンや映画賞候補の選出依頼が届く季節となった(←自慢)。

 届いてから慌てないように一応、あらかじめ選んでおくわけだが、押し詰まってから、すばらしい作品に出会ってしまうと結局、選び直しということになってしまう。昨年は「ゴーン・ガール」があった。今年は「アメリカン・ドリーマー」を観てしまった。

 劇中に"アメリカン・ドリーム"という言葉も登場するし、けっして的外れな放題というわけではないのだが、やはり原題の"A Most Violent Year"に味がある。最上級だが、冠詞が"the"ではなくて"a"なので、「最も危険な年」ではなくて「
とても危険な年」という意味になる。

 事態設定が1981年というのがミソですな。民主党のカーターに代わって共和党のレーガンが政権を取り、どこかの誰かさんが真似をした"レーガノミクス"を始めた年。

 石油運送業でのし上がって来た主人公オスカー・アイザックスは、強引な手段を用い、刑務所とシャバを隔てる塀の上を歩きつつ、それでも最低限の倫理を守り、筋を通し、ビジネスを続けている。

 だが同業者の妨害、司法の手などによって追いつめられ、ついに恐ろしい一歩を踏み出すことになる。

 彼が一戦を踏み越える決意をした瞬間に、ラジオから"レーガノミクス"開始のニュースが流れる。

 主人公が一線を越える瞬間は、アメリカが一線を超える瞬間なのだ。

 そしてラスト、彼は人の命よりもオイル(金)を大切に思う人間に成り果てたことが、鮮やかな"画"で示される。それまでマクベス夫人的な悪女として描かれて来た妻ジェシカ・チャステインとの対比と逆転も描かれるため、より印象が鮮烈となる。

 「とても危険な年」に主人公と、そしてアメリカは危険な一歩を踏み出す。「どんな手段を使っても、もうけた者の勝ち」、「何よりも金が大事」というテーゼが行き渡るようになり、このときを境に貧富の格差が急激に拡大していく。オリバー・ストーンの「ウォール街」を経て、チャンダーの、これも小傑作である「マージン・コール」の世界へとつながっていく。

 J・C・チャンダーの演出、脚本とも冴えまくっている。

 カーチェイスの場面にも感心した。「ナイトクローラー」は優れた作品だったが、ただ一カ所、カーチェイスのシークエンスが、いかにもハリウッドのアクション映画的な演出になっていて、それまで保たれていたリアルな世界観が崩れてしまっていた。
 「アメリカン・ドリーマー」では、追跡場面も、あくまでもこれ見よがしにならないように抑制の利いた演出になっている。

 チャステインが巧いのはわかりきったことだが、アイザックスにここまで出来るとは思わなかった。主人公の顧問弁護士を演じるアルバート・ブルックスは「ドライヴ」での最古悪役演技が高く評価されていたが、ぼくには今回の押さえた演技の方が好ましく感じられた。

 「マージン・コール」、「オール・イズ・ロスト」に続いて、またもやすばらしい作品を放ったチャンダー。
 彼が脚本を担当したピーター・バーグ監督、マーク・ウォールバーグ主演の Deep Water Horizonを、まずは楽しみに待つことにしよう。
 
 


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 最新号。連載はキャノン・フィルムズのドキュメンタリーについて、その2です。

キネマ旬報 2015年12月上旬号 No.1704

キネマ旬報社 (2015-11-20)


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