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映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「ジャッキー/ファースト・レディ 最後の使命」(Jackie, 16)

 ナタリー・ポートマンがジャクリーン・ケネディを演じ、パブロ・ラライン監督がJFK暗殺前後のジャッキーの姿を綴る。

 まず、ポートマンは、驚くほどジャッキーに似ていない。話し方などは工夫しているが、体格から顔の骨格から全く違っている。だが、だから悪いということはない。さすがの演技力とエネルギーで見せ切ってしまうのだから。例えば「モンスター」のシャーリーズ・セロンのように、外見までモデルとなった人物になりきるのではなく、あくまでもポートマン流のジャッキーを見せようという試みである。

 LBJ役のジョン・キャロル・リンチも、ボビー・ケネディ役のピーター・サースガードもまったく似ておらず、これはポートマンが似ていないので、わざと似ていない役者を起用したのではないかとさえ思える。

 似ている、似ていないは別として、リンチはいい役者なのに、マトモな見せ所がなくて気の毒。

 内容的には、ビリー・クラダップ演じる記者の取材に答えるパートと、神父ジョン・ハートとの対話(告解)を織り交ぜつつ、暗殺の前後が描かれるという構成で、ホワイトハウス内部を案内するテレビ番組のホステスをジャッキーがつとめたときの様子も挟まれ、これが案外効果的である。

 舞台でアーサー王を演じたリチャード・バートンの歌う「キャメロット」が全編のモティーフとして使われる。

 極めて優秀なエリートたちで周囲を固めたJFK自身がアーサー王、周囲の側近たちが円卓の騎士たちになぞらえられ、JFKのホワイトハウスはキャメロットと呼ばれ、JFK自身もそれを好んでいた(「フォレスト・ガンプ」でも、ガンプがJFKと面会する場面のバックに「キャメロット」が流れる)。

 しかし、JFKは暗殺されキャメロットは崩壊する。アーサー王伝説においても、王妃グェネヴィアと"騎士の中の騎士"ランスロットの不倫によってキャメロットは崩壊する。

 JFK自身が予想しなかったかたちによって、JFK政権とキャメロットの崩壊は、さらにに深く重なってしまったのだ。

 後にMPAA会長となってハリウッドに君臨したジャック・ヴァランティはLBJと知り合ったことでケネディ+LBJの選挙キャンペーン担当となった。LBJにより近く、名門出身者で周囲を固めるJFKとは距離があった。JFK葬儀の際には、棺の乗った車と共に墓地まで歩きたい(そうなると当然、新大統領や各国からの参列者たちからも歩かねばならなくなる)というジャッキーに対し、「私の大統領を危険にさらしたくない」というヴァレンティに、「私の大統領ですって?!」とジャッキーがキレる場面は、キャメロットの崩壊を巧みに表現した場面だ。

 以前、キネ旬の連載コラムで紹介するためにヴァレンティの自伝を読んだことがある。映画関連の記述に興味があって購入したのだが、JFK暗殺前後の記述が当事者だけあって実に興味深かった。そしてLBJ(とその夫人レディ・バード)への敬愛の念が溢れていた印象が強い。

 ヴアレンティをかなり否定的に描けているのは、大手スタジオ製作ではない、独立系の作品だからだろう。

 ボビー・ケネディがジャッキーに、まだ業績を残せないうちに政権が終わってしまったことを悔しそうに嘆いて見せる場面も興味深かった。ベトナム戦争の"手柄"をジョンソンに取られると思っているのだ。実際はベトナム戦争はジョンソンの命取りとなり、LBJはJFKノノ凝りの任期を勤め上げて選挙に勝利し、自らの政権一期目が終わったあと、現職大統領としては極めて異例なことに二期目に立候補しなかった。ベトナム戦争がLBJの政治的生命を終わらせたのだ。JFKが暗殺されなかったとしてもベトナム戦争泥沼化は避けられなかったはずで、彼の二期目、そして大統領職を辞した後の評価は極めて低いものになっていたはずだという歴史家は少なくない。

 「ジャッキー」という作品の中でも、ケネディの、そしてジャッキーの名は、実際に何か政治的な偉業を成し遂げたことによってではなく、神話、伝説をアメリカ史に刻んだのだ、ということがテーマとして浮かび上がってくる。
 正しいと思う。

 「人(世間)」に対するジャッキーの顔(取材)vs.「神」に対するジャッキーの顔(告解)と、ジャッキーの二つの顔が描かれるが、それでも謎は深まるばかりである。

 偉人伝として美化するでもなく、スキャンダラスな部分を強調するのでもなく、巨大な謎としてしかジャッキーは描けないのだと思う。
 この作品で語られる物語の後も、ジャッキーはスキャンダラスで、しかも謎に満ちた自分自身の物語を綴り続けたのだから。




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by broncobilly | 2017-04-01 15:44 | 映画評
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