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インドで五歳の時に家族と生き別れとなり、オーストラリア人の養父母に育てられた少年が、その二十五年後にグーグル・アースを使って生まれた土地を突き止め、里帰りをはたすという実話ネタの作品。
良い作品である。 前半、幼い主人公が家と家族から、運命の悪戯によって引き離され、インドの大都会を放浪し、施設に入れられるなど苦難を重ねる前半は、少年時代の主人公を演じるサニー・パワールの達者さと愛らしさが光る。 成人後の主人公は、デヴ・パテル。この人は逆に、ずいぶんと大人っぽくなったなあという感じ。20代後半なのだから、当たり前だが。「スラムドッグ$ミリオネア」や「マリゴールド・ホテル」正続編では、オリエンタリズムそのままに、西洋人から見たインド人のイメージを、そのまま演じさせられているようで、正直好きな俳優ではなかったのだが(テレビの「ニュースルーム」はよかった)、「LION」では、インド人、オーストラリア人、二つのアイデンティティと、養父母と実の家族への思いに苦悩し、引き裂かれそうになる役をしっかりと演じている。肌の色とかルーツとかを完全に超越して、一人の人間の魂が感じられる演技なのだ。 そのパテルを、なんとなく受けているようなルーニー・マラが、やはり巧い。 上手いといえば養母を演じるニコール・キッドマン。年齢と喧嘩せず演じているので、久々に自然な巧さが発揮されている。 ガース・デイヴィス監督の手腕もしっかりしているし、インド、そしてタスマニアの対照的な光景を見事に切り取るグレイグ・フレイザーの撮影も素晴らしい。 ついでに書くとシーアの歌う主題歌も実にいい。 と書いてくると、手放しの絶賛のようだが、ぼくはこの作品を観て、最近よく考えていることについて、また考えさせられ、複雑な気分になってしまったのである。 前にも、このブログに書いたのだが、実話ネタの作品で、ラストに"ご本人様"が登場するのはどうなのよ?という疑問である。 映画である以上、例えドキュメンタリーであっても、そこには作り手の作為が入り込むことは避けられない。ましてや「実話に基づく」ドラマの場合は、現実の出来事と相当かけ離れてしまうことも珍しくない、というか、当然そうなる。 だからダメだ、などと言う気はない。それが映画だ。 映画作家は現実の出来事を'材料'に、映画という'料理'を作って、観客に出すのである。 変な例えだけど、魚を一生懸命料理してブイヤベースを作り、その後に同じ魚を刺身で出して、「やっぱり新鮮な高級魚は生で食べるのが一番美味ですよ」と言われたらどうだろう。 そりゃあ、刺身が一番美味いよ。で、「ああ、美味しい魚だったなあ」ってお客さんが喜んだら、それは手をかけて作ったシチューを、料理人自身が全否定することになりはしないのかな。 特に"泣かせ"の映画では禁断ではないのか。 主人公が実の母と対面する場面は、とても感動的だ。 しかし、ラストに養母(ご本人)と実母(ご本人)がインドで対面した際の実際の様子がスクリーンに映し出されるのだ。 そりゃ、泣くよ。感動的だもん。強力だもん。 でもいいのか? さっきの例えが不出来だと自分でもわかっているので、別の例えを使うが、これって一生懸命に画家が子犬の画を描いて、でも最後にはキャンバスをひっくり返して、その前に本物の子犬を置いて、「やっぱ本物が一番だよねえ」というようなものではないのか?(ああ、この例えもダメダメだorz) イーストウッドは「ジャージー・ボーイズ」のラストで。健在のフランキー・ヴァリを出しての"ご本人様登場"をやらず、むしろ"作りものの"の彼方へと画面を飛翔させた。 「ハドソン川の奇跡」では、そもそも感動の押し売りを避け、しかも"ご本人様登場"も同窓会的に、さらりとまとめて見せた。 これなら、よい。洒落ている。 でも「LION」はベタベタなんだよ。泣かせるための飛び道具として、実際の映像を延々と流すんだよ。 これをやらずに、直前の二人の少年のショットで終わっていたら、ぼくはこの作品が大好きになっていたと思う。 映画は作りものである。作りもので真実を伝えようとする努力が美しいのだ。 '作りものの力'を映画の作り手には、もっと信じてほしいと思うのだ。 「LION/ライオン~25年目のただいま~」オリジナル・サウンドトラック posted with amazlet at 17.05.15 ダスティン・オハロラン & ハウシュカ SMJ (2017-04-05) 売り上げランキング: 19,103
by broncobilly
| 2017-05-15 17:51
| 映画評
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