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映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「メッセージ」(Arrival, 16)

 テッド・チャンの傑作SF短編の映像化。監督が絶対にハズレのないドゥニ・ヴィルヌーヴなので期待していたのだが、裏切られることはなかった。

 世界中に12の宇宙船らしき物体が姿を現す。軍人フォレスト・ウィテカーからの依頼を受けた言語学者エイミー・アダムスは、物理学者ジェレミー・レナーと共に、エイリアンとのコミュニケーションの手段を探っていく。その過程で、アダムスの意識も、大きく、そして決定的に変化を遂げていくことになるのであった。

 原作「あなたの人生の物語」は短編なので、ヒロインの意識と認知の変化の影響は、パーソナルな事柄のみに及ぼされることになっているのだが、エリック・ハイセラーの脚色は、それを人類の終末回避と絡めて、ストーリーの構造を大きく広げることに成功している。つまり、ロバート・ワイズの名作「地球の静止する日」(リメイクは論外)、ジェームズ・キャメロンの「アビス」(完全版の方)の流れを汲む作品になっているということだ。

 ヴィルヌーヴの演出は、いつものようにがっちりとしているのだが、この人の場合は、スクリーンに現出する"画"になんとも言えない味わいと幽玄な魅力がある。今回撮影を担当しているのは、初めてコンビを組むブラッドフォード・ヤングだが、ロジャー・ディーキンズと組もうが、ニコラ・ボルデュクと組もうが、ヴィルヌーヴ特有の画面は変わらない。しっとりと自然を捉えながら、そこに何か異物が紛れ込んでくる感覚である。

 宇宙船が自然や都市の上にそびえ立つ姿や、エイリアンの描写には、巨大な蜘蛛が街並みを見下ろしている、「複製された男」の、あの素晴らしいショットを思い出した。

 エイリアン、"アボット"と"コステロ"が初めて朦朧と姿を現す場面で「宇宙大怪獣ドゴラ」を思い出したなどと書いてしまうとバカにされそうだから、ブログには書かずにおこうと思ったが、やっぱり書いてしまった。

(ここから先、少しばかりネタバレ気味になります)

 原作を読んだときには、これをどう映像化するのかと思ったのだが、実際に観てみるとヒロインの"時間"認知の変化を、文章から映像へと、巧みに移し替えていることに感心した。

 最新の量子力学理論では、時間は流れるものではなく、過去も未来もすべての"時"は同じ場所に存在しているということになる。そんなことは、量子力学に頼らずとも、ノーベル賞作家のウィリアム・フォークナーが「"was"などというものは存在しない。常に"is"があるだけだ」と、ずいぶん昔に語っている。

 エイリアンとの意思疎通を試みる中で、ヒロインは全く未知の言語回路を知ることになり、そのことによって彼女の時間認識まで変わっていくというのは、ソシュールの「人間がいるから言語があるのではなく、言語があるから人間が存在する」というテーゼが納得できる人にとっては、受け入れやすいものだろう。

 そのあたりが、単なる思弁SFの面白さになっているだけでなく、人間存在の哀しさと美しさを訴えることにまで繋がっているのが、原作の素晴らしさである。それが映画版でも失われていない。

 映画化に際し、映画オリジナルの要素を付け加えようとして、結局はどっちつかずの引き算になってしまうというのは、悲しいことに決して珍しくはない。

 しかし、「メッセージ」は、原作のテーマと面白さを大事にしながら、そこに終末SFの要素を加え、かけ算にはなっていないにしても、すくなくとも足し算にはなっている。

 近年最高のSF映画登場、と言いたいところだが、ヴィルヌーヴの次作「ブレードランナー2049」が、「メッセージ」を宇和もワル傑作に仕上がっていることを期待しているので、その称号はまだ使わずにおこうと思う。




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by broncobilly | 2017-05-23 08:05 | 映画評
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