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映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「ゲティ家の身代金」(All the Money in the World, 17)

1973年に起きた、世界一の大富豪ジャン・ポール・ゲティ(訳あってクリストファー・プラマー)の孫ポール3(チャーリー・プラマー)誘拐事件の顛末を描く実話ネタ、というとリドリー・スコットのフィルモグラフィーからすると異色の作品のような気もするが、作品を見て大いに得心した。

ぼくは昔から機会あるごとに、リドリー・スコットが興味を持っているのは人間(じゃない場合もあるけど)が死と生の狭間のギリギリとところで声明を燃焼させつくす様をスクリーンに刻み付けることなのだ、と主張して来た。

 実際に起きた海難事故と、その後の裁判を描く「白い嵐」(96)も、なぜこれをスコットが?と思ったけれど、実際に観てみると、沈没していく船の中で命を燃やし、そして死んでいく若者たちと主人公の妻の姿を、じっくりと舌舐めずりするように撮っていて、肝心の裁判のシークエンスはおざなりだったし、どう考えても畑違いな「プロヴァンスの贈りもの」(06)は穴に落ちたラッセル・クロウがなんとか外に出ようと四苦八苦する場面だけが、妙に生き生きしていた。

「ゲティ家の身代金」は、ゲティが身代金支払いを拒否することでドラマが転がっていくわけだが、誘拐された青年、その母(ミシェル・ウィリアムス)、ストックホルム症候群というやつだろうか、少年との間に絆が生まれる一味の一人チンクアンタ(ロマン・デュリス)が事件の中で身を焦がし、ギリギリの状況の中で命を燃やしていく様を、スコットは実に嬉しそうに撮っている。その意味で、この作品は「エイリアン: コヴェナント」よりも、ずっとスコットらしい作品であると言える。

中でも見所はプラマー/ゲティの今際のシークエンス。短期間で撮り直したはずなのに、このクオリティはすごい。まさにスコットの真骨頂。もちろんプラマーの貫禄あってだが。もう一度撮らなくてはならなくなった事を、もしかするとスコットは喜んだんじゃないか、とさえ思える。

 貫禄のプラマー、やっぱり上手いウィリアムス。ゲティに雇われて誘拐犯たちとの対応に当たるマーク・ウォールバーグは、最近の作品では歯を食いしばって走り回るところしか見ていないので、腹芸らしきものを披露しようとしているのが新鮮である。もっとも、腹芸という点では短い出番のティモシー・ハットンが、やはり上だが。

「エイリアン」関係だと迷走してしまうようなので、そっちはもう止めて、まだまだ作品を撮ってほしいものです。

「ゲティ家の身代金」(All the Money in the World, 17)_e0160746_09021073.jpg



by broncobilly | 2018-06-06 09:02 | 映画評
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