おにがしま


映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
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「フラクチャー」Fracture (07)

 今回も「早く公開してくれえ! こんなに面白いんだから!!」映画紹介です。


「フラクチャー」

 これは近年の拾いものと言いたい本格ミステリである。
 ミステリ映画は相変わらず量産されているが、様々なパターンが出尽くしたこともあって、とにかく観客を驚かせようと、奇抜な、というか、トンデモナイ真犯人やトリックを無理にでっち上げたような作品が目立つ。「フラクチャー」のグレゴリー・ホブリットが監督した「真実の行方」(96)もツイストが売り物の映画だったが、しかしミステリとしてはきわめて真っ当なものであった。ホブリットの新作「フラクチャー」もそうである。
  ミステリとして真っ当というのは、なにからなにまでナチュラルでなければならないということではない。極論すれば完全にナチュラルな設定の本格ミステリなどあり得ない。「フラクチャー」とて同じ。不倫をしている妻に対して完全犯罪を試みるのがアンソニー・ホプキンスなのだが、その妻の浮気相手ビリー・バークが現職刑事という設定も、なぜ彼が犯行現場に最初に駆けつけるとホプキンスは確信できたのかというあたりも、つつき出せばきりがない。だがある程度不自然でも、一定の舞台装置を作った上で、あとはどこまでフェアに観客と知恵比べができるのかというのがミステリ映画の醍醐味である。これを味合わせてくれる作品が最近はとんと無かったから、この作品の登場が嬉しいのだ。
 アンソニー・ホプキンスは自家薬籠中の役柄。"魅力たっぷりの悪魔"を悠然と表現して飽きさせない。圧倒的に不利な状況のはずなのに落ち着き払い、やがて担当検事ライアン・ゴズリングを翻弄していく様を、憎々しい中に邪悪な茶目っ気を滲ませて演じている。
 余裕たっぷりのホプキンスに立ち向かっていくゴズリングも上り坂のスターらしい見応えのある演技を披露。ホプキンスを、事件を、法律そのものを舐めていた若手検事が事件を通して自らを見つめ直し、正義と法の重みに気づいて成長していく様子を瑞々しく演じている。
 凶器の行方が謎の核心となるわけだが、実はシンプルなワン・アイデアのミステリに厚みを加えているのが、主人公の成長を見据える人間ドラマの部分である。ファンタジー「オーロラの彼方へ」(00)で父と息子の関係を感動的に描いたホブリットは、「真実の行方」、「ジャスティス」(02)でも、ベテラン俳優と若手の組み合わせで擬似的な父子関係をテーマの中心に据えていた。
 「フラクチャー」には厳しくゴズリングを鍛え導く上司を演じるデヴィッド・ストラザーンと、野心的な恋人ロザムンド・パイクの父親で暖かい包容力でゴズリングを助けるボブ・ガントンの二人の疑似父が登場する。このあたりがきちんと描けているので、物語のビルドゥングス・ロマンとしての側面が薄っぺらくならずに済んでいる。
 派手な作品ではないが見逃さない方がいい。ミステリ映画好きなら、決して後悔することはないだろう。
映画・ドラマ

by broncobilly | 2009-01-04 06:30 | 映画評
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