おにがしま


映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
by broncobilly
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「チェ 28歳の革命」Che Part 1(08)

 スティーヴン・ソダーバーグ監督はこれを前後編併せて一本の作品として製作し、原則的にはその形での公開を望んでいるようである。だから、後編も見てからまとめてレビューしようかとも思ったのだが、まず前編についてだけ書いてみて、後編を観た後どう印象が変わるか、あるいは変わらないか確かめるのも面白いと思い、とりあえず前編を観て考えたことを現時点で記しておきたい。
 ソダーバーグ作品の主人公は多くの場合、体内に自分でどうにもできないほどのエネルギーをため込んでいる。そのエネルギーが爆発し、奔流のごとくスクリーンを満たす様を見つめるのがソダーバーグ映画の醍醐味(の一つ)だとぼくは思っている。「アウト・オブ・サイト」、「エリン・ブロコビッチ」、「オーシャンズ11」などの作品の冒頭場面では、爆発寸前のダイナマイトのように危険な主人公の姿が映され、そして物語が始まる。「チェ 28歳の革命」もそうである。そして、ベニチオ・デル・トロ演じるゲバラがキューバ革命の中でエネルギーを燃焼させていく様子がじっくりと描かれていくのである。
 ソダーバーグ作品のもう一つの醍醐味は、時間軸の大胆な解体と再構成にある。この作品においても革命の戦士、リーダーとして成長を遂げていくゲバラの様子と、キューバ革命成功後に国連総会出席のためN.Y.を訪れたゲバラの姿が交互に描かれる。ただし、それほど複雑な構成にはなっていない。ごくシンプルに平行されるだけである。
 この作品が真にユニークなのは、革命に伴う陶酔感、どころか一般的な英雄物語に伴う高揚感をも極力廃そうとしている点である。
 革命映画の例として、そう「アラビアのロレンス」を考えてみよう。ロレンスの人物描写はしっかりと深められつつ、しかし中盤までは革命が徐々に成功に近づいていく様子がドラマティックに語られ、観客を酔わせる。後半になると、革命の真の姿、理想が現実に取って代わる様が悲しみと共に描かれていく。
 「チェ 28歳の革命」はその前半部分に当たる作品はずなのだが(「39歳 別れの手紙」では別の革命に失敗し死んでいくゲバラが描かれる)、ソダーバーグは観客が革命のダイナミズムに酔いしれることを許さない。ゲバラの特徴として描かれるのはカリスマ性ではなく、悪口を言った言わないのレベルでの内輪もめを調停するといったような組織運営者としての優秀さが中心である。戦闘場面においても、アクションの興奮が高まりにくい突き放した演出がなされ、銃撃戦が激しくなると戦闘の音が消され、ゲバラのナレーションが重なり、高揚感を消し去ったりもする。
 脱走兵をゲバラが処刑するシークエンスもきわめて即物的な演出で、感傷や感情のつけいる隙がない。
 終盤の包囲線もスケールは大きいのだが、重要人物の死がやはり即物的に描かれる。もっともこの包囲線では、敵の司令官のすっとぼけた逃走が、笑いも怒りも伴わなずさらりと演出されているので、かえって可笑しくてたまらないものになっているのだが。
 いったん成就してしまった革命は、それが倒した体制とある程度は似たものにならざるを得ず、そのために革命と革命の戦士の純粋さも美しさも、革命が成功した瞬間に失われてしまう。だから、坂本龍馬やT.E.ロレンスやエルネスト・"チェ"・ゲバラのように、志中ばて命を落としたり、革命から退場した者は、革命成就の後も中心的な場で生き延びた者よりも神格化されるのである。
 ゲバラをそんな風に描きたいのであれば、「28歳の革命」では、革命のすばらしさを称揚し、ゲバラを少しでも美しい人間として描くはずだ。それによって「39歳 別れの手紙」での挫折や苦しみ、現実の革命が持つ醜さが際だつはずだから。しかし、ソダーバーグは敢えてそれを避けている。ここからどのような形で、後編につなげていくのか、楽しみでならない。
 ついでに書いておけば、一本の作品としても、ツボを敢えて外す演出のなされた英雄物語として「チェ 28歳の革命」は実に面白い。あっさりとしたラストなど最高である。
映画・ドラマ

by broncobilly | 2009-01-07 17:04 | 映画評
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