おにがしま


映画批評家      鬼塚大輔      による映画評その他なんだかんだブログであります。
by broncobilly
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31
最新号
https://www.amazon.co.jp/キネマ旬報-2018年6月下旬号-No-1782/dp/B07D32923K/ref=sr_1_2?ie=UTF8&qid=1528243400&sr=8-2&keywords=キネマ旬報+雑誌
外部リンク
最新の記事
以前の記事
検索
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧

<   2018年 10月 ( 4 )   > この月の画像一覧


「呪われた死霊館」(Malevolent,18)

80年代半ばのグラスゴー。ジャクソンとアンジェラの兄妹は、仲間たちと共に、アンジェラに霊媒の能力があると偽って幽霊退治のインチキ商売をしている。だが幼い姉妹たちが兄の手にかかって殺害されたという屋敷へ商売に赴くと、そこには確かに何かがいた。そして、アンジェラには、その‘なにか’が見えるようになっていた。

 Netflixのオリジナル作品は玉石混合で、まあ実際のところ石の方が多い。「死霊館の呪い」も、あまりと言えばあまりの邦題だし(原題はMalevolent)、IMDbを覗いてみても評価が極めて低いので、いつもならパスするところである。にも関わらず、どうして観てしまったのかというと、主演がフローレンス・ピューという女優さんだったから。知らない名前だったのだけれど、パク・チヤヌク監督版の「リトル・ドラマー・ガール」に主演で、グレタ・ガーウィグ監督版「若草物語」ではシアーシャ・ローナン、エマ・ワトソンと共演してエイミー・マーチを演じているとなれば、注目しておかないわけにはいかないではないか。

 で、作品そのものには期待を持たずに観始めたのだけれど、それがかえって良かったのか、思いの外楽しめた。

 オーフラ・デ・フルル監督の演出は、雰囲気重視で淡々としているのかと思えば、急に大きな音を立てて驚かせる場面もいくつかあり、じっくり見せたいのか、とにかく怖がらせたいのか、どっちつかずで前半はピューの熱演もあって退屈こそしないものの、特に感心するような要素もない。

 ところが、おお!と身を乗り出すことになるのが後半の展開で、これからご覧になる方のために詳しくは書けないのだが、幽霊屋敷ホラーから、別系統のホラーへとググッと舵を切るのである。
 そうなると、そっち系統ホラーとしての描写が意外と徹底しており、そっち系統と幽霊もののカクテルが、意外と上手くいっていることもあって、こちらも襟を正して画面に向き合うこととなった。

 全体の尺が九〇分足らずなので、飽きる暇もなく、後半はかなり加速して一気に見せる。

 屋敷を脱出したアンジェラ/ピューが、ある人物と出会う場面は特に気に入ったし、ラストの余韻もいい。

 上記の二つの場面ではピューが、なるほど、これなら売れっ子になるなあ、と思わせる表情を見せてくれる。

 小粒ながら拾いもの。
 そして、フローレンス・ピューには、やはり注目しておこう。

e0160746_15351270.jpeg



by broncobilly | 2018-10-10 15:36 | 映画評

「オペレーション・フィナーレ」(Operation Finale, 18)

 ベン・キングスレーという人は、何度も結婚と離婚を繰り返していて、別れた元奥さんたちへ支払う慰謝料の額が莫大だという記事を読んだことがある。そのせいか、吃驚するほど安っぽい作品にも頻繁に出演して、そんな時はやっつけ仕事の演技をしている。そのため、彼がどれほど優れた俳優なのかということを、ついつい忘れてしまいそうになるのだが、ちゃんとした作品で熱演しているときには、ああ、やっぱりキングスレーは凄いなあ、と改めて感心したり、感動したりする。
 「オペレーション・フィナーレ」を観て、久々にキングスレーの巧さと凄さに唸った。

 ナチス崩壊後、アルゼンチンに潜伏していた‘ホロコーストの実行人’アイヒマンを捕らえ、国外に連れ出したモサド諜報員(オスカー・アイザック、メラニー・ロラン)らの作戦を描く「オペレーション・フィナーレ」、って、これ、ついこの間、全米で公開されて、そこそこヒットしたし、評判も良かった映画じゃん!
こんなのが、いきなり配信されるからNetflixは止められない。

 監督はクリス・ワイツ。「ライラの冒険」や「ニュー・ムーン/トワイライト・サーガ」などの、ふにゃけたファンタジーを撮ったときとは打って変わって、じっくりと落ち着いた演出でサスペンスを盛り上げていく。爆発や銃撃戦などの派手な見せ場があるわけではないのに、淡々とした演出だからこその静かな緊迫感が見事である

 そして、やはり見事なのがキングスレー。囚われの身となりながら貫禄を失わず、捕らえた側を圧倒していく存在感が画面を満たす。この作品の製作を兼ねるアイザックが、キングスレーの演技をがっちりと受け止める。この二人が対峙するいくつかの場面は、特に見応えがある。

 この作品は当然、アイヒマンを美化などしていないわけだが、特に憎々しい悪魔として描いているわけでもない。家族に対しては良き父、良き夫として、描いている。実際そうだったのだろう。
 愛情深き父、夫であっても、同時に悪魔になりうる。そしてアルゼンチンでアイヒマンを護り、ナチス再興を夢み、ユダヤ人たちへの憎しみをぶつけるドイツ人たちとて、自分たちの思想や信条、そして異民族への憎しみはまったく正当なものだと思っている。そのことが伝わってくるから、この作品はとても恐ろしい。

 と同時に、今のような時代だからこそ作られるべきであった、今のような時代にこそ観ておくべき作品だとも思う。

*ピーター・ストラウスが小さな役で出演していて驚いたよ。

e0160746_09235243.jpeg



by broncobilly | 2018-10-06 09:24 | 映画評

「クワイエット・プレイス」(A Quiet Place, 18)

 音に反応して人を襲うモンスター(エイリアン?)の襲来で文明が壊滅した世界。アメリカ国内で生き残った家族のサバイバル。
 低予算ながらサプライズのメガヒットとなった作品。

 「低予算ながらサプライズ・ヒット」という作品は特にホラー・ジャンルの場合、とびきり面白いことが多いので(「ドント・ブリーズ」、「イット・フォローズ」、「ゲット・アウト」…)、大いに期待して見物に出かけたのだが、期待しすぎたのか、「悪くはないけどね…」という感じだった。

 実生活でも妻であるエモリー・ブラントと共に主演をつとめるジョン・クラシンスキーの演出は手堅い、という点では悪くない。
 だが、クラシンスキーも参加している脚本は結局スピルバーグの「宇宙戦争」でティム・ロビンスが登場したシークエンスを引き延ばして一本の映画に仕立てている、という感じで、そうなると「宇宙戦争」のスピルバーグはやっぱり上手いよなあ、としみじみ思いだしてしまう。

 登場するモンスターのデザインが、これまでのホラー/SFで百万回くらい見せられたタイプなのにもげんなりした。

 父と娘のすれ違いと和解というドラマも通り一遍だなあ。

 いや、楽しかったんですよ。ぼくはチキンだから、恐かったし、ハラハラしたし。
 でも、一番ハラハラさせられて恐かったのは、「音を立てるな!」でもモンスターでもなくて、「釘」でした。あれには参った。最初に映ってから、ずっと気が気じゃなかったよ。

 仕事でちょっと関わらせてもらったからというわけでもないのだが、これから公開される「アンダー・ザ・シルバーレイク」、「イット・カムズ・アット・ナイト」という、ホラー映画じゃないけれど、ホラーの要素もある豊穣な作品を堪能したあとだったので、「クワイエット・プレイス」を楽しみながらも、「やっぱ、マイケル・ベイが関わると、こんな感じになるんだなあ」と、変な納得をしてしまった。

 でも続編も観に行くけどね。

e0160746_08043018.jpeg



by broncobilly | 2018-10-05 08:05 | 映画評

「クリミナル・タウン」(November Criminals, 17)

 台風一過、空は真っ青で気温は高いものの空気はさっぱりして気持ちいい。
 なのに、交通機関が完全に再開していないために出講している学校が午前中休講となった。午後どうなるかは、しばらくはっきりしなかった。
 結局、週日休講との連絡があり、さて思わず空いた今日(一日、映画の日)何か観ようと思ったものの、「スカイスクレイパー」、「死霊館のシスター」はもう観たし、絶対に観るつもりの「クワイエット・プレイス」、「クレイジー・リッチ!」、「若おかみは小学生!」は時間が合わない。

 お、今頃「クリミナル・タウン」やってるじゃん。ふむふむ、IMDbチェックすると、うわあ、☆5.3かよ! どうしようかなあ。やっぱ美術館に行こう。あっ、月曜は休館日だ。

 というわけで「クリミナル・タウン」に行ってきた。行ってよかった。

 ワシントンD.C.に暮らす高校生のアディソン(アンセル・エルゴート)の親友ケビンがバイト先で射殺される。事件がギャング同士の構想として処理されることに我慢できないアディソンは、恋人というか初体験の相手のフィービー(クロエ・グレース・モレッツ)に協力してもらったり、反対されたり、またまたベッドを共にしながら、ケビンの死の真相を探ろうとする。

 明らかになる真相は?! え? それだけですか? あっと驚く真犯人とか、度肝を抜く背景とか、一切ありません。

 その代わり、エルゴートが「ベイビー・ドライバー」ばりに車を駆る華麗なアクションが…ありません。

 でもね、モレッツが脱ぐんだよ!というのも嘘です。すいません。

 なんかイライラした小僧が、でも童貞じゃなくなって嬉しいなあ、と時々ニヤけながら、画面の中をうろうろしているうちに、九〇分に満たない上映時間があっという間に終わってしまう。

 恋愛映画というにはミステリ的仕掛けが強すぎるし、サスペンスはあまりないし、さっき書いたようにミステリにはなってないし…。ジャンル不詳。

 でも、そこが捨てがたい魅力だったりする。サム・マンソンの原作を脚色したのがスティーヴン・ナイト(サーシャ・ガヴァシ監督と共同)なのですね。
 この人の書く脚本とか監督した映画には、なんというか一つのジャンルに収まりきらないところがあって、そこが面白かったりもする。

 「クリミナル・タウン」は特に「ハミングバード」(12)を思い出した。アクション場面がほとんど皆無の、ジェイソン・ステイサム主演作。ジャンル不詳。でも、これ好きなんだよなあ。

 自らの罪を贖うことで救済を求める男という主人公の姿も重なる。アディソンが何に「罪」を感じているかは、ここには書きません。ご自分でお確かめください。

 もともとはナイトが監督も担当の予定だったとのことだが、結局監督を担当したガヴァシが脚本にも参加(書き直し?)というあたりで、何かトラブったのかなあ、という気はする。

 ナイト監督版を観たかったような気もするが、ガヴァシの淡々としたタッチも悪くない。

 エルゴートとモレッツの初体験の場面は、イメージ・ショット的に処理するのではなく、尺を取って、ある意味具体的に描写しているのだが、白を基調とした画面に、まったくイヤらしさがないのが良。

 主役二人は旬の人たちだが、少年の父を演じてるのがデヴィッド・ストラザーンで少女の母がキャサリン・キーナー。
 極端な性格を与えられている役ではないのだが、巧い人たちなのできっちり見せてくれる。
 字幕には出ないが、ストラザーンは元ワシントン・ポスト紙のカメラマンだが落ちぶれていて、キーナーは政界の大物で、主役二人のロマンスには「身分違いの恋」の要素もあるのだが、これ見よがしではなく、どちらかの親を悪役にするでもなく、さらりと描いている。

 デヴィッド・ボウイの歌を、あんな風に使うのは反則だ。とてもよかったけれど…。

 などと書いてくると、とてもいい映画のようだが、これといった盛り上がりもなく終わるし、いびつな作品であることは間違いなく、若い二人の代表作には決してならないだろう。

 でも、台風でふと空いた午後の、他に選択肢がなかったがゆえの時間つぶしとしては、ちょっと心に残る拾いものになったと思う。

e0160746_17213696.jpg


 


by broncobilly | 2018-10-01 17:22 | 映画評